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横浜家庭裁判所 平成3年(家)3063号 審判 1994年7月27日

申立人 甲野三雄

相手方 乙山二美 外11名

主文

1  相手方甲野一範(以下一範という。その他の当事者についても同様に略称する。)の寄与分を全遺産の50パーセント(1億4139万円)と定める。

2  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  遺産目録(1)(2)の各物件を、一範は13948分の13444、一彰は13948分の504の共有持分により共有取得とする。

(2)  同目録(3)(4)(6)の各物件を二美、三雄、四美、六雄、七美は各36分の6、五恵は36分の3、五子、五郎、五平は36分の1の共有持分により、いずれも共有取得とする。

(3)  同目録(5)の物件は、一範の取得とする。

(4)  一範は、下記各代償金及びこれに対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

<1>  二美、三雄、四美、六雄、七美に対し各金201万円を

<2>  五恵に対し金100万円を

<3>  五子、五郎、五平に対し各金33万円を

3  本件手続費用のうち、鑑定人○○○○に支払った鑑定費用45万円は、一範が15分の9の、二美、三雄、四美、五恵、六雄、七美がその各15分の1の各負担とする。

手続費用の償還として、下記のとおり支払え。

(1)  三雄に対し、一範は27万円を、二美、四美は各3万円を、五恵は25,715円を、

(2)  七美に対し、六雄は3万円を、五恵は4,285円を、

理由

家庭裁判所調査官△△△の各調査報告書、その他一件記録に基づく当裁判所の認定判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始、相続人、及び法定相続分

被相続人は、昭和51年5月30日死亡し、相続が開始した。

相続人は、被相続人の亡長男一雄(昭和43年8月28日死亡)の代襲相続人相手方一範(一雄と一恵間の長男)、同相手方一彰(同二男)、同相手方一子(同長女)、同相手方一奈(同二女)、相手方長女二美、申立人三男三雄、相手方二女四美、相手方亡四男五雄(平成3年12月23日死亡)の相続人である承継人妻五恵、同長女五子、同長男五郎、同二男五平、相手方五男六雄、相手方三女七美である。

その法定相続分は、相手方一範、同一彰、同一子、同一奈が各28分の1、相手方二美、申立人三雄、相手方四美、相手方六雄、相手方七美が各7分の1、相手方五雄承継人五恵14分の1、同五子、同五郎、同五平が各42分の1である。

2  相続分の譲渡

相手方一子は平成5年2月19日付印鑑登録証明書を添付した相続分譲渡証書により、同一奈は平成5年2月18日付印鑑登録証明書を添付した相続分譲渡証書により、各自の相続分全部を相手方一範に譲渡し、同一範はこれを譲り受けた。したがって、相手方一範の相続分は28分の3となった。

3  遺産の範囲及び評価

(1)  本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載(1)ないし(6)であると認められる。右遺産の評価は、遺産目録「評価」欄記載のとおりである。

遺産の現況は、次のとおりである。遺産目録(1)(2)は、相続開始以前から一体として利用され、物件目録記載の各建物が所在し、同(1)の建物は昭和42年5月亡一雄が建築し同人の所有名義で固定資産税が課税され、一範と一恵が従前から住居として利用し、亡一雄の遺産分割は未了であるため、同一雄の相続人らの共有である。同(2)の建物は昭和47年に一範が建築し、一範が申立外トリ商会に一範固有の土地と共に賃貸し、地代家賃併せて月額16万円を得ている。同(3)は雑種地であり利用されていない。同(4)は現況宅地部分約319平方メートル、山林部分約500平方メートル、墓地部分約40平方メートルであり、宅地部分の一部は第三者に賃貸されている。同(5)(6)は、平成2年頃から休耕地になっている。

(2)  遺産目録(4)については、前記認定のとおりその一部分に墓地約40平方メートルが含まれるが、本件被相続人は祭祀財産の承継者の指定をしていないところ、相続人全員が本件において一括解決し、一範、一彰以外の相続人が共有取得することを合意している。本来祭祀財産の承継者について被相続人の指定のない場合には、当事者間の協議に委ねられているが、本件のように墓地であっても登記上遺産である一筆の土地に含まれ、墓地のみ独立していない事情を加味すると、これを当事者の意思に反して敢えて分筆し、別件に委ねることは相当でなく、本件遺産分割手続においては当事者の祭祀財産の承継についての協議の存在するものとして墓地部分も含めて一括処理をすることが許されるものと解することができるので、本件墓地部分についても遺産分割の対象として一括分割することとする。

4  特別受益

一範は、一彰以外の相続人は昭和22年3月4日に二美、昭和25年4月28日に四美、昭和29年12月13日に三雄、昭和33年12月3日に亡五雄、昭和34年11月30日に七美の各婚姻について亡一雄ないし被相続人から婚姻支度、住居の補助をしてもらったことを特別受益である旨主張するが、右主張の事実に沿う事実の存在したことは推認できるが、亡一雄からの受益は本件では関係がなく、その他の事実について特別受益であるとしても、被相続人がこれらを持戻す意思を有していたとは認められない。つまり、被相続人はそれぞれの子女の婚姻に際して、親として当然のことをしたものであり、これが将来自分の遺産分割において清算的効果を持つものと考えていたとは認められないので、被相続人の持戻し免除の意思が推認できるものということができる。

5  一範の事実上の寄与分

被相続人の相続の開始は、昭和51年5月20日であるから民法904条の2の寄与分制度の制定(昭和55年法51)以前であるが、事実上の寄与を寄与分と同様に考慮することは許されるものということができ、一範を除く本件当事者は遺産目録(1)(2)について一範が跡継ぎとして取得することを認めている特別の事情を考慮して、一範の寄与分を以下のとおり認めることとする。

被相続人は、大正4年9月19日太郎と婚姻し、太郎の父太一が大正7年7月5日死亡したため、太郎が家督相続により農地約2町3反を相続し、被相続人夫婦は農業によって生活してきた。太郎と被相続人間の長男である一雄(相手方一範の父)は、昭和17年4月4日一恵と婚姻し、一雄、一恵夫婦、と被相続人らが農業に専従していたが、太郎は昭和27年ころ貸家を建てその家賃収入を得、一雄は農閑期に工場で働くなどの副収入を得て、被相続人らの生活費に当てた。昭和31年12月13日太郎が死亡したため、それ以降、一雄が中心となって農業経営を維持し、太郎の遺産は被相続人と一雄が相続し、被相続人の相続した物件が本件遺産となった。被相続人は昭和41年ころ脳溢血で倒れ、それ以降農作業はできなくなったところ、昭和43年8月28日一雄が死亡し、農業の中心的担い手は相手方一範及び一恵となった。遺産の固定資産税は、昭和31年から昭和43年は一雄が、昭和43年以降は一範が負担した。

以上の事実によれば、亡一雄及び一恵、一範は亡太郎及び被相続人の家業である農業を維持することによって農地などの遺産の維待に寄与したものと認められ、亡一雄の代襲相続人である一範は、被相続人の相続人としての亡一雄の地位を承継するのであるから、亡一雄の寄与分あるいは、一恵が一雄及び一範の履行補助者として寄与したことを承継ないし包含するものということができる。そこで、一範の寄与分として本件遺産の前記評価額の50パーセントと認めるのが相当である。

6  相続分の算定

(1)  平成6年4月1日現在の遺産評価額

前記認定のとおり合計2億8278万円である。

(2)  一範の寄与分

遺産評価額の合計額2億8278万円につき、前記認定のとおり一範の寄与分50パーセントは、1億4139万円(以下万未満切捨)である。

(3)  各相続人の具体的相続分

二美、三雄、四美、六雄、七美の各具体的相続分 2019万円

(28278万×0.5)×1/7 = 2019万8571

一範の具体的相続分 1514万円

(28278万×0.5)×3/28 = 1514万8928

一彰の具体的相続分 504万円

(28278万×0.5)×1/28 = 504万9642

五恵の具体的相続分 1009万円

(28278万×0.5)×1/14 = 1009万9285

五子、五郎、五平の具体的相続分 336万円

(28278万×0.5)×1/14×1/3 = 336万6428

(4)  各相続人の取得額

一範以外の相続人の取得額は、上記具体的相続分と同額となり、一範の取得額は上記具体的相続分に寄与分を加算した1億5653万円となる。

(14139万+1514万=1億5653万)

7  分割の事情

三雄は、肩書住所に自宅を所有して妻と共に年金生活を送り、本件分割方法について一範の意見の変化に連動して多少の変更はあったが、概ね基本的には遺産目録(1)及び(2)を一範と一彰が、その余は一範、一彰以外の相続人が取得することを希望し、右(3)ないし(6)は取得者の共有を希望している。二美は、農業を営む夫、長男一家と共に肩書住所で年金生活を送り、四美は肩書住所に夫と共に生活し、長男らと共に食品店を自営し、六雄は、肩書住所に自宅を所有して妻子と共に生活し、会社員(事務員)として勤務し、七美は、肩書住所の長男所有の自宅で長男と共に生活し、七美自身も事務員として勤務し、一彰は、工業高校を卒業して会社員として勤務し、肩書住所に自宅を所有して妻子と共に生活し、五恵は亡五雄の遺産である肩書住所の自宅で長男、二男と共に生活し、一範、一彰を除く当事者は三雄の分割意見にほぼ同調している。

一範は、前記のとおり遺産目録(1)(2)上に所在する亡一雄の遺産である建物に一恵と共に生活して農業に従事しているが、本件分割方法について結論的には遺産全部を取得したい意向であり、その場合は代償金として各人に30万円、ないし全員に対する総額400万円を支払う意向を示し、特に遺産目録(5)(6)の取得に執着した。一範の平成4年分の申告所得額は14,193,866円であり、亡父一雄の遺産を相続して不動産(山林3筆合計3332平方メートル、田10筆合計2293.68平方メートルなど)を所有していることから、後記代償金程度の支払い能力を有するものと認められる。

一彰は、分割方法について一範と同調する意向であり、自己の相続分として宅地を一範と共有で取得することを希望した。

七美は、農業の跡取りであった亡夫の遺産分割の経験から、相続人一人当たり1000万円程度の代償金であれば一範の支払い能力の範囲内であり、他の相続人もこの程度の譲歩をして解決するべきであるとの意向を示している。

8  当裁判所で定める分割方法

上記認定した本件遺産に属する各不動産の種類、地目、現況、使用状況、各相続人の住居、生活状況、分割方法についての意見、その他審理の全趣旨、本件に現れた一切の事情を総合検討した上、次のとおり分割する。

(1)  遺産目録(1)(2)の物件は、一範と一彰の共有取得とし、その共有持分は一範13948分の13444、一彰13948分の504とする。

(2)  遺産目録(3)(4)(6)の物件は、二美、三雄、四美、六雄、七美各6分の1、亡五雄の承継人五恵12分の1、同五子、同五郎、及び同五平各36分の1の各共有持分により共有取得とする。

(3)  遺産目録(5)の物件は、一範の取得とする。

(4)  一範は前記のとおり遺産目録(1)(2)の共有持分及び(5)を取得し、その取得額は1億6866万円であり、同人の具体的取得額1億5653万円を1213万円超過することになり、これを代償金として以下のとおり各相続人に支払う義務がある(以下代償金の算定は万未満切捨)。

二美、三雄、四美、六雄、七美の具体的相続分は、前記のとおり2019万円であり、上記遺産の取得額は1818万円であるから、各201万円が不足し、これを一範から代償金として支払われることになる。

五恵は、具体的取得額1009万円であるところ、前記のとおり遺産の取得額は909万円であるから、その不足額100万円であり、これを一範から代償金として支払われることになる。

同様に、五子、五郎、及び五平の前記遺産取得額は303万円であり、具体的相続分336万円に不足する33万円が、同人らの取得する代償金となり、これを一範が支払うこととなる。

本件鑑定費用45万円は、三雄が385,715円を立て替え、七美が64,285円を立て替えているところ、各当事者の本件遺産取得の程度などを考慮して、主文のとおり負担するのが相当であり、その償還として三雄、及び七美に対し、主文のとおり支払うべきである。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 若林昌子)

別紙 物件目録等<省略>

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